IBS(過敏性腸症候群)について

IBS(過敏性腸症候群)は、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘と言ったお腹や便の異常が主な症状です。倦怠感や筋肉痛、吐き気、頭痛、肩こり、抑うつ、動悸といったかたちで全身に症状が現れる方もいます。

IBSは、命には関わらないものの、患者さまが快適な日常生活を送るのを非常に難しくしてしまう深刻な病気です。本ページでは、IBSという病気について症状や診断と検査、治療法などをご説明いたします。お腹の症状でお困りの方、病院へ行くべきかお悩みの方、どうぞ一度ご相談いただけたらと思います。

IBS(過敏性腸症候群)とは?

  • 検査で異常がないのに、お腹や便の様子がおかしな状態(腹痛、膨満感)が続く
  • 通勤・通学電車の中や大事な会議や試験の前に、必ずお腹が痛くなる
  • おならを我慢できず、臭いが気になってしまう
  • 下痢、便秘を伴うことが多い

患者さまにとって、とても深刻な病気です

IBSは、検査では異常がないことが特徴なため命には関わらないものの、患者さまが快適な日常生活を送るのを非常に難しくしてしまう深刻な病気です。

いつお腹が痛くなるか、下痢するかわからないので行動が制限されてしまい、日常生活に支障をきたしている方や、いつでもトイレに行ける環境でないと不安で仕事にならず、転職される方などもいらっしゃいます。

また症状の辛さに加えて、周囲の人に症状を理解してもらうのが難しい、わかってもらえないという苦しさもあります。

日本人の10人に1人がIBS

IBSの罹患率は低くなく、現在日本では10人に1人がIBSを発症しているといわれています。年齢は、10代~20代の若年層で発症することが多く、男女比では女性の方が多いです。

IBSの症状

お腹や便の異常が、主な症状

IBSは、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘と言ったお腹や便の異常が主な症状ですが、倦怠感や筋肉痛、吐き気、頭痛、肩こり、抑うつ、動悸といったかたちで全身に症状が現れる方もいます。

IBSの4つのタイプとその特徴

IBSは便の形状によって「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つのタイプに分類されます。またこの4つには入っていませんが、最近では、特にガスによる症状が目立つタイプを、その特徴から「ガス型」と呼ぶようになっています。

便秘型

IBSの便秘型の方は、腸が過剰に動くことで狭くなり、その結果便が通りづらくなって便秘になります。長い間、腸内に便がとどまるため、水分のないコロコロとした形状になります。

  • 女性に多くみられる
  • 便秘が続いてお腹が苦しい
  • 便が出にくい
  • 硬く、コロコロとしたうさぎの糞のような便が出る
  • ストレスがかかると、便秘がひどくなる

下痢型

IBSの下痢型の方は、腸の動きが激しくなり、便が水分を保ったまま素早く腸内を通り過ぎてしまうため、下痢の症状が出ます。

  • 男性に多くみられる
  • 便緊張するとおなかが痛くなり、下痢をする
  • 一日に何度も水のような便が出る
  • 下痢の便に粘液がついている
  • ストレスがかかると、下痢がひどくなる

混合型

下痢型と便秘型の両方の特徴をあわせ持ちます。

  • 下痢と便秘を繰り返し、お腹の状態が不安定
  • ストレスを感じると、頻繁に下痢と便秘を繰り返す

分類不能型

上記3つに分類されない症状が出ている方は、分類不能型となります。

その他(ガス型)

IBSのガス型の方は、腸の動きが過剰になることで腸内にガスがたまり、おならを中心と・したさまざまな症状が現れます。

  • おならが頻繁に出る
  • おならを我慢できない
  • おならを我慢できない
  • 腹痛
  • 緊張するとお腹が鳴る(腹鳴)

緊張するとお腹が鳴る(腹鳴)

心理的なストレスがきっかけ

IBSの原因は、実ははっきりとは分かっていません。ですが、最近の研究では、ストレスで腸が過敏になってしまうことが主な原因とされています。

ストレスを感じると、ストレスホルモンが脳から腸へ伝達され、その刺激で腸の蠕動運動(波打つように肛門方向へと食べ物を送り出す動き)に問題が生じます。

すると、腸が強く収縮して下痢になる、また過剰に収縮した結果腸が狭くなって便秘になる、といった排便の異常や、腸管にガスが溜まるために起こる腹部膨満感、また腸が過敏になることで痛みを感じやすくなるために起こる腹痛などの、IBSの症状が出てきます。

IBSの症状自体がストレスになる悪循環

また、IBSの症状自体がストレスとなり、さらなる症状の悪化を引き起こす「IBSスパイラル」の状態に陥る可能性もあります。「脳腸相関」と呼ばれますが、脳と腸は、たがいに密接に影響を及ぼし合う関係にあります。

ストレスは心理的なものだけではなく、睡眠不足や運動不足、過労で身体への負担が重なることでも起こります。ストレスが原因である証拠として、IBSは先進国で多くみられます。まさに、ストレス社会が生んだ病気といえるでしょう。

※ストレス以外の原因として、細菌やウイルスが原因の感染性腸炎から回復した後にIBSになりやすいという報告もあります。

IBSとセロトニンの関係

腸の異常が起こる際に深く関係しているのが、セロトニンという体内神経伝達物質です。セロトニンというと「不足するとうつ病になりやすい」など精神状態を安定させる物質としても知られていますが、それは脳で分泌されるセロトニンに限っての話です。

実は脳で分泌されるのはごくわずかで、体内のセロトニンの90%以上は腸内に存在しています。脳から腸へストレスホルモンが伝わると腸内でセロトニンの分泌量が増え、それがセロトニン受容体と結びつき、下痢や腹痛といったIBSの症状が現れるのです。

IBSになりやすい人

誰しも、生きていく中で多かれ少なかれストレスを感じるものですが、大事なのはストレスにどう対処するかです。ストレスを感じたときにうまく対応できない性格の方は、IBSを発症しやすいといえるでしょう。

また腸や身体に負担がかかるような生活習慣を続けている方も、IBSになりやすいといえます。

IBSと腸内細菌の関係

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)の病態に腸内細菌が大きく関与している可能性が報告されています。

  • 感染性腸炎後にIBSが発症し、IBS患者の腸内細菌組成も健常者と異なる
  • ストレスは腸内細菌組成を変容させ、粘膜透過性亢進と内臓知覚過敏を招き、IBSの病態に沿った病理変化を起こす
  • IBS患者の腸内細菌を変容させ、症状が改善する場合には、同時に抑うつを中心とする中枢機能が改善する

と言った報告があります。

性格的な特徴

  • 精神的に真面目
  • プレッシャーを感じやすい
  • ストレスを一人で抱えて、溜め込んでしまう
  • 息抜きができる趣味がない
  • 周囲に相談できる人がいない
  • 辛い、悲しいときに我慢してしまう
  • 人に気を使いすぎてしまう

生活習慣の特徴

  • 精神的に真面目
  • 忙しくて身体を休める時間が取れていない
  • よく暴飲暴食をしてしまう
  • 運動不足が続いている

IBS(過敏性腸症候群)の診断と検査

IBSの診断には、まずIBSに該当するかどうかの基準に照らして判断します。その後確定診断を下すためには、他の病気ではないことを証明するための検査が必要となります。

診断方法

IBSの診断方法として、国際的に用いられているローマⅣ基準という診断基準があります。まずはこの診断基準で、IBSかどうかを判断します。

IBSの診断基準(ローマⅣ基準)

  • 最近3ヵ月の間に、平均して1週間に少なくとも1日以上、お腹の痛みや不快感があった
  • 下記の3項目のうち、2つ以上があてはまる
    • 排便によって症状がやわらぐ
    • 症状が排便の回数の変化を伴う(増えたり減ったりする)
    • 症状が便の形状の変化を伴う(柔らかくなったり硬くなったりする)

検査方法

確定診断をするためには、検査が必要です。IBSと診断するには、潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなどの他の病気ではないことを確認するための検査が必要となります。

検査内容

まずは、便潜血検査(検便)・血液検査を行います。血便、粘血便が出る、体重が減少している、嘔吐してしまう、熱が出るといった通常IBSではみられない症状が出ている方には、加えて腹部超音波検査、腹部X線検査、大腸内視鏡検査などの検査が行われます。

検査費用

当院での、3割負担の場合のおおよその目安となります。患者さまの保険の負担割合によって異なります。初診料、診察料、投薬料などは含まれておりません。

検査 費用
血液検査 約2000円
便潜血検査 約800円
腹部超音波検査 約1800円
腹部X線検査 約1000円
大腸内視鏡検査 生検なし7,000円/生検あり11,000円

IBS(過敏性腸症候群)の治療

生活改善とお薬での治療となります。

検査を受けてIBSと診断されたら、段階を追って治療を進めていきます。まずは、運動療法と食事療法をメインとした生活改善から始め、効果が見られない場合にお薬での治療へと進みます。

IBSの治療では、手術などは行いません。

お薬でも改善しない場合は、心療内科や精神科をご受診いただくケースもあり、心理面からのアプローチを取り入れて経過を見ていきます。IBSの治療では手術などは行いませんので、安心してご来院ください。

生活改善

メインは運動療法と食事療法の2つです。生活習慣を改善しながら、好きなことを思いきり楽しんだり、息抜きができるような趣味を持ったり、心身ともにリラックスし、ストレスから解放される時間を作りましょう。また、身体を温めることも効果的といわれています。

運動療法

適度な運動はIBSの症状を改善させます。具体的には、手軽にできる軽い筋トレやストレッチ、ウォーキングやランニングもおすすめです。身体を動かすことで、精神的なリフレッシュも期待できます。

食事療法

3食を規則的にとり、暴飲暴食、夜間の大食を避け、食事バランスに注意しましょう。 腸内環境を良好な状態に保ち、多様性のある腸内細菌叢を作り上げることが大切です。

多様性のある腸内細菌叢を作る食事とは?

シンバイオティクスという考え方:シンバイオティクスとは、腸に有用菌を届けるプロバイオティクスと有用菌を育てるプレバイオティクスを組み合わせた食事をとることです。シンバイオティクスの視点から食生活の歪みを整える事で、腸が元気になり、腸以外の色々な健康効果が生まれます。

プロバイオティクス(発酵食品) 納豆、ヨーグルト、チーズ、味噌、ぬか漬け、キムチ、塩麴、甘酒など
プレバイオティクス(腸内細菌の餌) ごぼう、大麦、オクラ、めかぶ等のネバネバ食品、海藻、ライ麦、大豆製品、玉ねぎ、バナナ、リンゴ、ニンニクなど

IBSの方が避けた方が良い食べ物

  • カフェインが多く入っている飲み物(コーヒー、栄養ドリンクなど)
  • アルコール類
  • 脂っこい食事

※下痢型の方は牛乳や乳製品、冷たい食べ物・飲み物も避けた方がよいです。

※食事ではありませんが、タバコに含まれるニコチンはIBSの症状を悪化させることがあります。

下痢型の方におすすめの食べ物・飲み物

  • 脂っこくなく、消化の良いもの
  • おかゆや、雑炊、白身魚
  • 白湯

便秘型の方におすすめの食べ物・飲み物

  • ノンカフェインの水分(積極的に水分補給を)
  • 食物繊維が豊富な野菜、フルーツ、海藻類

お薬

主に、腸の働きやお通じを改善する薬や、セロトニンの作用を抑えるお薬などを使用します。以下の様な薬を組み合わせて治療します。

■ 乳酸菌製剤(いわゆる整腸剤)
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などが配合された薬剤。腸内細菌叢の異常による腹部の諸症状を改善します。
■ 合成高分子化合物(ポリカルボフィルカルシウム:コロネル)
中性条件下で水分を吸収し、膨潤、ゲル化。便の水分バランスをコントロールします。腸内で水分を吸収・保持し、便の固さをほどよくして便通を整えます。下痢と便秘の両方に効果があるので、下痢型、便秘型を問わず過敏性腸症候群に広く使用可能です。
■ オピアト作動薬(セレキノン100mg)
消化管のオピオイド受容体に作用して、消化管の運動亢進時には抑制作用を、運動低下時には促進作用の2面性を持つ消化管運動調節薬です。IBSでバランスが崩れた胃腸の働きを改善します。
■ 選択的セロトニン5-HT4受容体作動薬(ガスモチン)
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などが配合された薬剤。腸内細菌叢の異常による腹部の諸症状を改善します。
■ 選択的ムスカリン受容体拮抗薬(チキジウム臭化物;チアトン10mg)
M受容体を遮断し、副交感神経抑制作用を示す。平滑筋運動抑制作用があるのでIBSの痙攣性疼痛に有効です。IBSの腹痛のコントロールに用います。
■ 副交感神経遮断薬(抗コリン薬:メペンゾラート臭化物:トランコロン15mg)
IBSの腹痛のコントロールに用います。
■ グアニル酸シクラーゼC(GC-C) 受容体作動薬(リンゼス)
腸管の管腔表面のGC-C受容体を活性化させることにより、細胞内のcGMP濃度を増加させ、腸管分泌促進作用、小腸輸送能促進作用、大腸痛覚過敏改善作用を示す薬剤です。便秘型過敏性腸症候群の便秘改善薬です。
■ 粘膜上皮機能変容薬(アミティーザ)
小腸や腸粘膜上皮に作用. 腸内の水分分泌を増加させ. 腸管内の便輸送を高めて排便を促進させ、便秘を解消する薬剤です。
■ 5-HT3受容体拮抗薬(イリボー)
5-HT3受容体を阻害することで過剰なセロトニンの作用を抑え、過敏性腸症候群による下痢や腹痛などの症状を改善する薬剤です。
■ その他の薬剤
止瀉薬(下痢止め)、便秘薬を症状に応じて追加します。

心理療法

心療内科や精神科で、お薬や心理療法を用いた治療を行い、心理面から働きかけ治癒を目指します。

IBSと鑑別が必要な病気

ご不安な方は、ぜひお早目に検査を

IBSの症状を抱えて日々の生活を送るだけでもとても大変ですが、ご自身の症状がIBSなのか、他の病気なのか判断できず、ご不安を抱えていませんか?気になる症状がある方は、ぜひお早目に検査をご受診ください。

潰瘍性大腸炎・クローン病

潰瘍性大腸炎とクローン病はともに炎症性腸疾患で、潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜、クローン病は消化管に炎症が起き、びらんや潰瘍ができる病気です。どちらも主な症状は下痢や腹痛、血便、発熱で、クローン病では体重減少もみられます。

IBSでは、血便や発熱、体重減少の症状はみられないため、これらの症状が出ている方は、一度大腸内視鏡検査などの精密な検査をご受診ください。

機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシアは、検査で異常がないのに、胃痛や胃もたれ、みぞおちの痛みが続く病気です。ストレスが原因といわれるところがIBSと似ており、FDの方はIBSや逆流性食道炎を合併する確率が高くなっています。

大腸がん

大腸がんの初期症状は、便秘、下痢、便秘と下痢を繰り返す、血便などがあげられます。IBSの症状にとてもよく似ていますが、血便は通常IBSの方にはみられません。

そのため、血便が出ている方には、大腸内視鏡検査などの精密な検査をおすすめしております。

うつ病

IBSの方は、うつ病や不安症を合併しやすくなっています。ストレスからIBSを発症したものの、しだいにIBSの症状自体がストレスになり抑うつ状態が続くという悪循環に陥ってしまうようです。

心療内科での投薬治療、心理療法といった治療の選択肢があります。

当院のIBS治療

IBSの治療を受けようと思っても、どこの病院やクリニックがいいかお悩みの方も多いと思います。当院は、胃腸科・消化器科を併設し、平成10年の開院以来、IBSでお悩みの方にも数多くご来院いただいております。専門医にどんなささいなことでもお気軽にご相談ください。

苦痛のない大腸内視鏡検査が受けられます

診察の結果、大腸内視鏡検査が必要になった場合、検査の痛みが怖いという方も多いのではないでしょうか。当院の大腸内視鏡検査は、細くて自然に曲がる内視鏡と、腸内に空気ではなく水を入れる検査方法の導入により、痛み知らずで受けることができます。女性の方もご安心ください。

IBSの治療をお考えの方へ

IBSは、克服できる病気です

IBSの症状に悩まされ、苦しい思いをされている方に強くお伝えしたいのは、IBSは克服できる病気だということです。医師の指導のもと生活改善に取り組んだら、それだけで症状が軽くなったという患者さまも多くいらっしゃいます。

病院へ行くべきかお悩みの方、辛い症状でお困りの方は、ぜひ一度ご相談いただけたらと思います。